旅する力

旅する力―深夜特急ノート チャイルド44 上巻 (新潮文庫) チャイルド44 下巻 (新潮文庫) 



「旅する力」  深夜特急ノート  沢木耕太郎  新潮社 ISBN:9784103275138 C0095

「チャイルド44」上  トム・ロブ・スミス  新潮社  ISBN:9784102169315  C0197

「チャイルド44」下  トム・ロブ・スミス  新潮社  ISBN:9784102169322  C0197



何時読んでも落ち着く沢木耕太郎の文章。これは「人徳」のなせる業か?
いわば深夜特急の背景を語ったような本書。できれば氏の父親のことを語った「無名」とあわせて読むとより分かりやすい。「壇」では無頼派として知られた作家の妻を取材し、「凍」では登山家として結ばれた夫婦の物語を語る。
どの作品を読んでもその文章の底にはどこかに暖かいものが流れている気がする。感情に押し流されることのない、ブレの無い視点で見つめながらしかしあたたかい、不思議な文章である。筆者近影?の写真をみると相変わらず好い男だなあと思う。
近藤紘一と山際淳司そして沢木耕太郎というのが自分の憧れるノンフィクション作家。そのうちの二人は若くして逝ってしまった。
もっともっと文章を書いてくださいませ。期待しております。


このミステリーがすごい!」第一位にはずれなし。どこが「新人」よ!とつっこみたくなるほど、世の中には手だれの新人とやらがでてくる。


この構成といい描写力といい、一発屋にはならないだろう。あとは好みかどうかの問題である。「ラーゲリのフランス人」とかスターリン関係の本の記述を否応無しに思い出させられる。そこを逆手?にとった状況設定が鮮やか。
肝心のロシア国内では発禁というのは笑えなくもないが、これは当然かもしれない。というよりこれを旧ソ連人は「娯楽」として楽しむような気になれるか、という問題が先決である。


これよりもっと深刻な状況を現実に生きてこなければならなかった人々がこれを「楽しむ」余裕があるだろうか。実際またぞろ似たような政治状況に陥っているような懸念さえあるのに。そう、これを「楽しめる」のはきっと民主化の中で生きることを当然として育った國のひとなのかもしれない。


以前そういえば20世紀から21世紀頃の「中国の写真家」を尋ねていた人の文章を見た事が有る。
その人は帝国主義によって占領されていた時代の中国の政治状況を頭では理解していてもそのころ人民がどういう状況におかれていたかについては全く想像できていないらしかった。

「写真機」をどういう階級が所有できたかとか、写真というメデイアが「情報統制」にかかわる危険性とか、文化大革命運動の最中に「写真機」「写真」を所持しているという事がそれだけで命にかかわることかもしれなかったとか。

バルザック小さな中国のお針子」の話は実話だが、それによると「バイオリン」を所持したり外国文学の本を一冊所持していると知れただけで処刑の対象。そんな時代「写真家」が生き延び「写真集」を編むなどちょっと考えられないと思ったのだがどうだろう。数人の回答者がそういうことを指摘しても一向に理解できないらしかった。

お仕事のリサーチとして質問していらっしゃっていたにしては、えらく無神経な文章だった。「そういうものがないとしたら、とても残念ですね」と他人ごとみたいな言い草。日本も中国を占領し、当然「情報統制をする側」にあり、すなわち当時の「文化」を圧殺する当事者側にいた筈なのに。


とまあいいつつ、面白かった。文句なしおすすめの一冊。