メモリー

メモリー 上 (創元SF文庫)   メモリー 下 (創元SF文庫)



「メモリー」上  ロイス・マクマスター・ビジョルド    創元SF文庫  ISBN:4488698123 C0197

「メモリー」下  ロイス・マクマスター・ビジョルド    創元SF文庫  ISBN:4488698131 C0197

単発的にしかも順不同でしかこのシリーズは読んでいないので、登場人物を思い出すのに苦労する。
人間関係は全然複雑ではないので、単に自分の記憶力の問題。シモンのような正確無比な記憶チップを装着していればとは、忘れ物の多くなった年寄りだけの繰り言ではないだろう。といいつつ、どこかに小咄があったっけ。あるばあさんが「もういちど若くなって、人生をやりなおさせてやろう」と言われたら「若い頃の過ちとかなにかもいっしょくたにもう一度やりなおせってか、冗談じゃあ無い」と断ったとかいうお話。
忘却は、救い也。といっても、時折ふいに甦ってギャッ言ったりする事もしばしば。シモンの他は精神に異常をきたした、というのは当然の理である。

ミステリーとは何も奇矯なトリックを見破るということだけが主題ではない。
「どうやって追いつめるか」という過程でもあるという見本がこの作品かもしれない。そう言う意味では上質のミステリーでもある。マイルズという主人公がそもそも軍人に不適格な体を持ちながら、いかに宇宙空間での軍務を乗り越えてゆくかという設定も尋常のことではない。なにしろ、体格的に不利どころかある意味「障害者」で、しかもその生まれが軍人の家系とくれば問題は大きくなる。
このシリーズでずっとその決定的に満たされ得ない「自分の価値」を求めて来たマイルズが、この巻の終盤でようやく何かをみつける。スペースオペラのようなドンパチ戦闘シーンは今回ないけれど、読んで損をしないこと請負いの作品。