日本人の6

今回でこの項は終了。この文章は日本でそれなりの月日を経てからでないと書けないような基礎智知識を含んでいる。
おかげでとても役に立つ。

この時までの晩餐の用意整ひて余等は日本料理を味ふこととなれり
我々は皆一様に食事すれども各自一つづつテーブル(膳)あり、先づ日本酒豆製の汁(味噌汁)切れ切れの鮮魚に醤油といふ奇麗なる液をかけたるもあり、さてこの醤油といふは暗褐色にして豆と塩と発酵したる麦との混合物なり、その次には生菜や種々の塩漬ありまた石のやうに固き梨これは日本人が大好きのものなり、晩餐は飯と茶とにて終る、


飯はペック枡のやうなる大きなる円き木の櫃に入れて運ばる、主人は余等にひだるくて帰らぬやうにといふ理由を以て頻りに強ふ茶は小き茶碗に入れてあるが往々日本の親友が飯に茶をかけて食うを見ることあり、食事中は始終日本人の食ひ方を見て出来得る限り真似したり、汁は大きなるコーヒー椀のやうなるに入れて勧められたりこの汁は椀を唇につけて吸ふなり、


さて魚や飯や菜は皆箸を以て食ふなれば余等もまけじと真似したれど仲仲むづかしかりき、諸君は誠に石盤用のペンシルを二本持ってそを二つの始めの指と右の拇指との間に平均せさせてその尖端にて飯粒を拾ひ截肉をはさみ上げて見給へ、いかに其むつかしきかは直ちに知らるべし。


生計可なりの日本といへども一食に二式以上の料理を食ふは稀あんり日本人は一日に三度食事を即ち置きて朝飯、昼に昼飯、日暮れに夕飯といふ順序なり卵や鶏肉はテーブルの上によく用意せられ極めて美味の魚は汁にしまたは煮、焼きて王侯の口にも適ふ程に調理せらる肉は僅食ひ牛酪も乾酪も用ゐずして飯が食事の主部を成すなりされど間にはこれを買ふ事も出来ぬ貧乏人ありて黍や草の種などを代用し、晩餐後は一家皆座上に円陣を造りて雑談すれば隣人も来る而して男も女も話しながら小き煙管にて煙草を吸ふ、


小供は種々の勝負事して遊べど学校に行くものは翌朝の学課の下見をし小娘等は人形を持って遊び騒々しき事甚し、また下男共は戸締りしかくて家は箱の如くなるなり而して唯一の風通しは隅の方の穴あるのみ。


余等は始めより寝台のあれりかと気遣ひて家中を方々探したれど床らしきものも見えず兎角する中に下女に導かれて二階に登れば押入より布団を出して敷きたるが枕は木製の煉瓦様のものにて一夜の紙は其上におほはれたり余は幾度か試みたれど痛みてたまらねば上衣を捲き上げて枕にし布団をかけてやがてホームの夢を結びつ(をはり)
(訳文の拙なるは読者とカーペンター氏とに深く謝する所なり「訳者いふ」)