解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯


「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」   ウエンデイ・ムーア   河出書房新社  ISBN:9784309204765 C0098



巻末に書いてある解説には「爆笑もののエピソード」とあるけれど、全然そういうものとは思えず。たしかに、「墓場泥棒」の上質顧客であった当時の解剖医が上流社会の金持ち連中を顧客にしようと鎬をけずっていて、しかし自分の遺言には「絶対自分の遺体を解剖するな」と厳命に言いつけていたというところは笑えるにしても。当時の社会では幼児は二才になるまでに半分が死亡、「医学的治療」として認められていたのは「浣腸」と「瀉血」と「毒薬」。こういう状況のなかでいかに医者として登り詰め、その金をつかって数多諸々の「標本」をつくり蒐集して世界初?の博物館をつくりあげたか。

読みながら「青いドレスの少女」を思い出す。多分この作品はこのジョン・ハンターの時代の資料をネタ本にしているわけだ。思うに現在の「医学」は根本的には当時と変わっていない部分があるのではないか、といささか恐怖を以て考える。
解説には肉親の解剖を良しとしない「日本的情緒」なるものに少し批判的な感じを受けたが、さて。
実際のところ当事者になってみれば素直にはうなずけないところもあるのですよね。教授についてくるインターンの視線にさらされ診察を受け、必要があるかどうか不明の血液検査を日に数度され統計資料として見られているような扱いをうける「患者」の身になってみれば。
肉親にとっては、「もういいから」という気になります。というわけで、海堂尊氏のおっしゃっていることに同意。
「医者」も人間だろう。いつかは「患者」になります。そのときどうします?

ちなみに、この本は桜庭一樹日記に出て来た。おすすめの本であります。かつ大変面白い。