鎮火報

明日この手を放しても  僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)  鎮火報Fire’s Out


「明日この手を放しても」   桂望実  新潮社 ISBN:9784103033516  C0093
「僕の叔父さん網野善彦」   中沢新一  集英社新書0269D   ISBN:4087202690 C0223
「鎮火報」   日明恩(たちもりめぐみ)   講談社   ISBN:4062117290 C0093


桂望実は「県庁の星」でブレイク?、かなり辛口のキャラ設定がいつも笑いを誘ってくれる。こういう部分でリアル感がでるというお手本かもしれない。愚痴言いまくり、気に入らない事はみんな他人のせいという結構いそうな兄を持つ妹が、突如病魔のために失明するところで物語がはじまる。

冷静かつ突っ込み鋭い当事者である妹よりも、妻をその直後に亡くした父親が不安定な精神を持つ人だったというおまけがつく。夢見がちで売れない漫画家の父親は、漫画原作者としてデビューした妹と二人三脚漸くブレイクしたところで突如失踪する。まさに踏んだり蹴ったりの展開なのだが、やっぱりお涙頂戴という感じではないのだった。あたらしい「自立」の物語、とでもいうか。



中沢新一は初めて読む。東大出の学者さんはこんなことを日夜考えながら生活しているのかと思いつつ。
それはいいけど、さっぱりわからない。「エッセイ」とか「思い出」の範疇だから、といっても学術用語の説明とかないので理解できないところが腹が立つというか悲しい。だいたいが、網野善彦の業績から知らないとチンプンカンプンなのだった。知らない私が悪い。
説明しだしたら新書ですむ筈がないんだよね。当然。とりあえず、網野さんの「幸運」は理解できたと思う。学者肌の人が理解のない身内の中で育ち、婚家で理解ある人たちに出会ったという幸運。
借りていた古文書を市井の人に返すために長い年月をかけたという誠実な人柄と漏れ聞く。優しいお人柄が忍ばれる。



「鎮火報」は作家の第二作目らしく、今回は「消防士」の世界を舞台にしております。巻置く能わずの大部册。
主人公は「消防の現場なんか冗談じゃあない。早く事務方に行くんだ」としか思っていない、品行方正とかけはなれた若者。成り行きで消防士になったものの、誤解とこれまたなりゆきで連続放火事件を追うはめになる。
消防士という職業の人が普段はどのような仕事をしてどんな思いをしているのかを垣間みることのできる良書かつ、むちゃくちゃ面白い物語。ひとりつっこみがすごく的を得ていて、これだけでかなり笑える。
相変わらずテーマは重いんですけど。