悪霊の島 下

悪霊の島 下 ラジオ・キラー わたしのなかのあなた (Hayakawa Novels)

「悪霊の島」上 ステイーヴン・キング 文芸春秋 ISBN:9784163285108 C0097

「ラジオ・キラー」 セバスチャン・フィツエック 柏書房 ISBN:9784760132652 C0097

「わたしのなかのあなた」 ジョデイ・ピコー  早川書房 ISBN:4152087633 C0097

久々のキングで至福の思いをさせていただいた。キングファンならば、キングが書いた「洗濯物のリスト」さえ喜んで読むだろうという揶揄はじつは当たっている。なにしろ自分がペーパーバックを買い出した一因はそこにある。ITは結局全部はよめなかったけれど、それでもやはり楽しめた。
この悪霊の島は「骨の袋」や「ローズマダー」あたりの系譜と思っていいのだろう。読みながらキングが創造した「おぞましいもの」ベストワンなどランクつけをしてみたりする。自分的に一番は「ローズマダー」だろう。そういえば「歯のあるカエル」だの出てきてこれはどこかの短編に出てきたぞなどと楽しんでいる。半分わけのわからん「蘊蓄」かますおっちゃんのいうことには、たまに自分でもわかる年代物が出てきてこういうあたりのお遊びも面白い。


Under The Domeは11月10日のハードカバー、ペーパーバック、コレクターズもの一斉発売らしい。さすがキング。
出版社にかならず売れるという確信を持たせるからこそ、こんなことができるわけだ。短編で無料ダウンロードできるサイトがあるというからこれもチェックかな。コレクターものは7000円するが、ペーパーバックで三千円。これってどれだけの厚さよ!邦訳したら3巻はかたいだろう。お買い得かもしれない。

「ラジオキラー」
キングがマラソンならば、これは五千メートル走。ちょっとペースが速すぎるうえに中途半端に距離がある。結果突然素人がほとんど全力疾走しながら長距離走らされる感じ。周りを眺める余裕もなし。酸素欠乏でときどき伴走者(登場人物)の顔をみてもよくわからない。「ぜいぜい。あんた誰だっけ?」「治療島」を書いた達者で意表をつく作家だから気も抜けない。「なんか騙そうとしてるでしょ!」
ノンストップミステリーというのは当たっている。しかも面白い。が、自分には体力が足りなかった。もう年だねえ。これについてゆくにはスタミナがいるんだわ。ぜいぜい。
「このミステリーがすごい海外版15位」につられて手に取った。その価値はある。しかしキングの後に読んだのが不幸だった。ゴールのテープを切った所で思わず振り返って云う。「それで?」いや、べつに文句はありません。どうしても点が辛くなるんですよね。仕方ない事です。


「わたしのなかのあなた」
My Sister's Keeperというのが原題。内容を知るとこの題名だけで辛いですね。いつぞや新聞で実際そういう裁判があったという記事を読んだような覚えがあって(後書きにある例ではなく)ノンフィクションだと思って読み始めたもので、はじめから??みたいなところがあり。フィクションだったのですね。ゆえにこんな書き方になるということで納得。ただいま映画館で上映中ですけれど、多分見には行かないので原作を読む事にした。
事実ならばこういう結末も仕方ないかとは思っていたが、フィクションならば結末もうすこし別な風に出来たのではないかという気がしきりにします。下手な結末はその前の提起を台無しにしかねない。話はうまいし、キャラクターの設定も見事な作家であることはよくわかる。けど色恋沙汰は余計じゃあないかという気も。糖衣錠なんだろうけど。


まあ、「別にいいじゃあないの。深刻な提起だけを書きたいわけじゃあなかったのだから」といわれればそれだけのこと。
頭の中でカズオ・イシグロの「わたしを離さないで」とか新井素子の「星へ行く船」、マーガレット・アトウッドの「侍女の物語」なんぞを思い出しながら読んでおりました。「ジャンルと小説の書き方の関係」について考えさせられます。
とまあ、今回は云いたい放題(いつもか)。でも、どれも面白かったですよ。