46年目の光

鷺と雪  邪魅の雫 (講談社ノベルス) 46年目の光―視力を取り戻した男の奇跡の人生


「鷺と雪」 北村薫 文芸春秋 ISBN:9784163280806 C0093
邪魅の雫」(じゃみ の しずく)  京極夏彦 講談社 ISBN:4061824384 C0293
「46年目の光」視力を取り戻した男の奇跡の人生  ロバート・カーソン NTT出版 ISBN:9784757150607 C0098

年末は端正な文章の北村薫の本で締める。もしかして、と思ったことがやはりそうなってしまった。 こんな華族のお嬢様風の物語というか語り口は余り好まないのだが、ほんとうにこの作家さんが書くと不自然でなくまた気にならない。 深々と降り積もる雪が印象的な情景。特にあ〜だこ〜だという必要は無い。

邪魅の雫
大分京極夏彦の世界に慣れて来た。大体三日間くらいかかって踏破。二日目半分すぎたあたりでどうにも辛くなって最後にひとっ飛び。が、推理小説の通常の形式ならばそれで済む所が京極には通用しないことが分かっただけ。もとに戻って読み進める。で、最後迄来てようやく納得落着いたしました。今回榎木津逡巡している。元気ない。
京極さん、中禅寺も関口君もちゃんと細君がいるんだから榎木津にも細君世話してやってよと言いたくなる。辛いぢゃあないか。なるほど今回の題名はまさにぴったり内容に合っている。それにしても奇妙な京極の世界。とにかく、冒頭が辛い。読み進めて三分の一あたりでようやくおぼろに意味が見え半分で状況が理解でき始めたら幸いという世界。でも、絶対京極夏彦にしか描けないという世界なのだった。

「46年目の光」
人間の細胞は4年だか5年で総入れ替えするという。46年も経ったら入れ替えどころか脳みそのニューロンさえその役割を変えてしまう、という考えた事も無い事実にたまげる。「みる」ということの意味、そのための訓練、色彩の意味、などなど。もう科学なのか哲学なのか、すべてをひっくるめたところでこの話は進んでゆく。圧巻な記述のひとつは、彼(レイ)が光の中に蘇ったときの瞬間の記述。ぜひともその件だけでも読んでみて欲しい。同時にレイを育てた母親の姿が凄い。その勇気。交通の激しい通りの店に息子が「ひとりで自転車で行って来る」(自転車というのも凄い)と伝えた時に決して止めなかった というエピソード。などなど。
46年目に光を取り戻すという事象に比肩する、否それ以前にこの人は奇跡を体現しているのではないかなどと(本人は否定するだろうが)思ってしまうのだ。