インカにねむる

インカに眠る氷の少女  リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)  アリスの服が着たい―ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生  大塚女子アパートメント物語 オールドミスの館にようこそ


「インカに眠る氷の少女」 ヨハン・ラインハルト 二見書房 ISBN:9784576070025

リヴァイアサン クジラと蒸気機関 スコット・ウエスターフェルド 早川書房 ISBN:9784153350014

「アリスの服が着たい」ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生 坂井妙子 勁草書房  ISBN:9784326653270

「大塚女子アパートメント物語 オールドミスの館にようこそ」 川口明子 教育史料出版会 ISBN:9784876525119 C0036




闘う考古学者。高山の頂上近くにつくられた遺蹟を発掘する。高山病、クレパスへの転落、落石、気候の悪化によるブリザードなど遭難の危険のなかの登山。歩くのが精一杯の環境でタンクも背負わず発掘作業と記録。発掘物は背負ってベースキャンプへ降りて行かねばならない。

こんな中で見つけた凍結ミイラは可能な限り即刻低地へ運び、現地の学術機関による発掘物の争奪戦をかわしながら最高の保存環境を調達し資金を調達し保存を確実にせねばならない。世論を煽るマスコミの対応にも苦慮する。遺蹟の場所を特定されたら、ダイナマイトで発破かけて盗掘する輩がいる。シカンの発掘を書いた本にもありましたが、一旦政府とか公共機関に発掘物が渡ると下手すると「紛失」するという事情はこちらでも一緒。

こうして発見された「生け贄になった少女」のミイラから判ったインカの祭祀の模様はまことに興味深い。彼女たちの推測される生涯を読んでいたら、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を思い出しました。生け贄になるために聖別され育てられ、そしてその役割を果たすために終焉の地へ旅していった少年少女。なんともいえない読後感。


リヴァイアサン

3部作の第一弾だそうです。ジブリの作品を思わせる手に汗握る少年少女の活動劇。ぜひともジブリで、といいたいが…。どうなんだろう。とりえあえず次作は絶対に読むぞ!ハリーポッター、メじゃないです。こんなわくわく感何十年振りだろう。


「アリスの服が着たい」

最近セーラー服ってまだ制服にあるのでしょうか。どうもそのルーツはヴィクトリア時代にあるらしい。「セーラー服」(英国海軍制服)「フォントルロイ・スーツ」(小公子)、「アリスの服」とかどうしてそんなタイプの服が子供服になったのかという時代的考察をした本。著者が日本人というところがまた面白い気がする。

ロリコンだったルイス・キャロルが「不思議の国のアリス」の挿絵の衣装に拘った件、判る気もするが可笑しく。小公子の「フォントルロイ・スーツ」が流行った話、そういえばルノアールの息子、後世のルノアール監督が小さい頃金髪が綺麗だからと伸ばせさせられてモデルになっている絵がありますが、たしかあれ「フォントルロイ・スーツ」だったような気がする。

「ハーバートおばさんの服」はモンゴメリーの作中で女主人公が嫌い抜いていて、たまたまそれを着て床磨きしているところに来客があって恥をかいてヒステリックになるくだりがあった筈。視点が面白いとこんなに面白い本(論文?)になる、という最適の見本であります。


「大塚女子アパートメント物語」

時代ですねえ。今こんなアパートメントがあったらどうなのだろう。いや無理、ですよね。


追撃の森 (文春文庫) 死ぬまでお買物 (創元推理文庫) 死体にもカバーを (創元推理文庫)  ぼくの大好きな青髭 (新潮文庫)


「追撃の森」 ジェフリー・デイーヴァー 文藝春秋 ISBN:9784167812065 

「死ぬまでお買物」 エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫 ISBN:4488150063 C0197

「死体にもカバーを」 エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫 ISBN:4488150075 C0197

「ぼくの大好きな青髯」  庄司薫 新潮文庫 ISBN:9784101385341 C0193


The Bodies Left Behind どういう風に訳すのかと考えていたら「置き土産の死体」だと。なるほどプロはちがうと感心する。
これをそのまま題名にしたらばドロシー・セイヤーズみたいな印象になってしまうので「追撃の森」納得の邦題。
日本語で読むとさくさく読めてしまうのでこういう場合はペーパーバックで読む方がワクワクして二倍くらい楽しめる。語学力がついて行かないので、はやる心を抑えつつ二転三転どころか昔のアメリカTV映画のつづきものみたいにコロコロ変わる状況を「え〜っ!」といいながら追って行くのが楽しい。ジェフリー・デイーヴァーの醍醐味である。

読んでみて大体筋は理解出来ていたらしいとその点で満足。


「死ぬまでお買物」「死体にもカバーを」

最近のぞきはじめたミステリー関係のサイトにあった「コージー」物をとりあえずつまんでみる。本筋とはちょっとはずれた設定環境に味を見いだすのがコージーらしいのだが、こういうあれこれ(枝葉末節といおうか)を読むのが面倒な自分向きではないらしいと今回確認。にたようなものでミス・マープルものがあるけれども、こっちはやはりクリステイだけあって比重がトリックのほうに傾いているので自分的にはOK。自分がハードボイルド系とかサラ・パレツキーとか最近の検死官シリーズ読む気にならないのは、そのせいか。


「ぼくの大好きな青髯」
高橋のおばさんが薫君に押し付けたお金が五百円札…。はるけく歳をとったものであるかなという感慨あり。うちの実家には百円札(伊藤博文?)が蓄えてありましたが、大した価値にはならぬか。という些細な数カ所を別にして、やはり青春文学の金字塔のひとつであろうと思える。
解説では、村上春樹の1Q84?は主題として似ていると言っているけどそうなのか?村上春樹村上龍、どちらもあまり読んだ事が無いのでよくわからない。作家的には自分の「文学観」とやらは昭和30年代あたり以降のものから進化していないらしい。
庄司薫は一見読み易くて、しかし読み解くには深い物語なのである。