コンゴ・ジャーニー

コンゴ・ジャーニー〈上〉  コンゴ・ジャーニー〈下〉


コンゴ・ジャーニー」上  レドモンド・オハンロン   新潮社 ISBN:9784105058517 C0098

コンゴ・ジャーニー」下  レドモンド・オハンロン   新潮社 ISBN:9784105058524 C0098



たとえばこの本のおそろしさは、吾妻ひでおの「不条理日記」を初めて読む時のようなもの。
寝転んでいる主人公の眼前に脈絡も無く突然ミニチュアの「大名行列」が現れて歩いて行く。それを眺める主人公はこれまた突然「おねげえですだ!」とその大名行列の前に直訴しながら身を投げ出す。

なんだそりゃあ?と笑っているうちはよいけれど、しばらくすると「これはひょっとしてアルコール依存症の本人の幻想をそのまま描いたものではあるまいか」と言う考えがじわじわと頭の中に浸透して来る。嗤いがいつしか凍り付いているのに気づくというあんばい。


だれが、いくら珍しい植物や猿や鳥類や伝説の生き物を見たいからと云って、エボラ出血熱の発祥地、ツエツエ蠅の生息地、マラリア、熱帯性熱病、致死的な毒蛇、ワニ、同等に危険な密猟者のジャングルのなかに踏み込んで行くかよ!と、思わず力説してしまう。

カズオ・イシグロがとんでもないとあきれた(なぜカズオ・イシグロなのかわからないが、英国人つながり?)という冒険記というウリですが、はっきりいってとんでもなく無茶でしかし「面白い」。心の平安はなぜか筆者が見つけて書き上げる鳥類、猿人、植物のリスト。これでぶちきれそうな理性?のわずかな線が保たれていると云う具合。


面白いけれど、あるいみ辛いです。この地には人間の偏見、差別、貧富という社会情勢が縮図のようにつめこまれているから。
といいつつ、今下巻の半ばなんですけどね。相棒のラリーはどこへ行った?

なんて英国人は分けのわからん事をするのやら。
椎名誠が読んだら涙を流して喜びそうだけれど、実は彼には読んで欲しくない。読めば行きたくなるだろう。行ったら十中八九帰って来れん。