第一高等学校の4

寄宿舎の状況。一時は風紀が乱れていたので綱紀粛正をおこない、ということらしい。
600名の血の気の多い学生が群れていれば当然いろんな人間が居る。ということで。

寄宿舎の概況

寄宿舎は東、西、南、北の四寮ありて寮生現今六百余名各寮三名の委員を設けて寮務を処理せしめ各室一名の総代を選挙して室内の整頓を督せしむ、而して寮内の整頓は元より一切寮生の連帯責任とす自治寮の實を擧げむ為めに四大綱領を設け寮生は之を遵奉して敢て侵さず、これその自治寮あ t るを得る所以、荀も此の四大綱領にして一たび蹂躙せらるる事あらんか、即ち自治寮は滅亡の端緒を開きたるものと云はざるべから慮ざる其四大綱領とは實に左に擧るが如し。


1 自重の念を起し廉耻の心を養成せしむ
2 親愛の情を起し共同の風を養成せしむ
3 辭譲の心を起し静粛の習慣を養成せしむ
4 衛生に注意し清潔の習慣を養成せしむ


夫れ此の如く自重の念廉恥の心を以て綱領の第一位に置ける以て我校風の如何に美なるかを知るに足る。
尚ほほ寄宿舎の細事及ひ運動部の状況につきては報道すべき所頗る多けれども筆意の儘ならざるを以て此等の通信は他日に譲り終りに我自治寮の由来並ひに校風を諸兄に照介して止まんのみ。


抑も我自治寮は實に明治二十三年時の校長今大学総長木下先生が当時の俗、日に澆季に流れ淳朴の風地を払うて空しく、人心自重廉恥の念に乏しく士気日に萎?し文弱浮華の弊滔々として停止しる所なきを憂へ、学生をして世俗の此風潮に遠かり道義も涵養し品性も修養し兼ねて身神を鍛錬して青年の元気を発揮し以て古武士の遺風を保持せんと欲して創設せられたる所なり、


爾来吾人の先輩は慨然籠城を以て自ら任し、向陵々頭高く自治の旗を揚げてこれに據り、四大綱領を遵奉して私を捨てて公につき善をすすめ悪を戒め文弱豪奢を退けて敦厚素朴の風を迎へ侃々の議諤々の論以て自治の實を掲ぐるの手段至らざるなかりき、ここを以て勤倹の俗成りて校内華帽麗衣を装ふなく尚武の風行はれ来て薄志弱行の徒全く跡を絶つに至れり