第三高等学校の4

松江中学校では独逸語が教えられていないので、高等学校になってからこれを始めねばならずどこに行っても苦労している様子である。都会であればこれを家庭教に学ぶ機会もあるのだろうが、その点田舎は不利ではある。教科書なしの口述というものが結構あるところに注目。欠席している閑はなし。

国語
1週3時間にして教科書は大鏡を用ゆ、国文科卒業の藤岡文学士に依て教授せらるる事とて、氏が得意なる藤原時代の文学を、豊富なる学識を以て説明せられ、大に満足す、文法は1週1時にして氏の新説も尠からざれども、勢冗長に渡ればこは他日に譲ることとなしぬ。


漢文
1週3時間、大野教授に依て教へらるる所にして、教科書は第一高等学校編纂に係る高等漢文読本巻六なり、而して其包有するものは楚辭、秦文、西漢文、東漢文、魏文、晋文にして生徒も一般に熱心に研究し、今や将に終らんとす、而して時には氏が得意の詩文を筆記せしめてこれを解釈批評せらる、而して氏は王陽明学派の人にして時には氏の学説の一端を聞く事を得。


独逸語
1週7時、内文法3時間、解釈4時間なり、教科書は解釈には第一高等学校編纂の独逸語読本巻一を用ひ、甚だ丁寧に教授せられ、且つ進歩も非常に早し、文法は矢張第一高等学校編纂の独逸語文法教科書を用ひ、其他に実用的の文法を教へ、専ら文章を作らしめる、抑も此の語は大抵初めて習ふ事とて、生徒も熱心に調べることなれば、他のものに比して進歩早し、然れども大抵全級中の半数は入校以前に多少此の語を研究せし人なるが如し、現に京都府尋常中学校の如きは五年舊の後半期位より科外としてこれを修め、一通の観念を習得して後高等学校に入ることなれば大に便利を得るものあり、解釈は足立助教授文法は大井教授に依て教へらる。


歴史
1週4時間、此の教授は各学校に依て多少の異同あるが如し、本校にては前川文学士に依て教授せられ、万国歴史を初よりして近代の終迄教授せられ、別に教科書を用ゐずして口授なり、而して時々其時代に適する参考書を示さるるを以て大に便利なり、故に事実の如きは極めて之を略し、文明史体にて殊に法律、経済、政治の如きは極めて詳細たり、故に事実の如きは尋中時代に充分覚え置く方得策ならんと信ず。


政治地理
1週3時間、前川文学士に依て教授せられ、内1時間は専ら理論えお研究し、他2時間を以て専ら欧州列国の政治的地理を教授せられ、同じく教科書を用ゐずして口授なり。