ワイルダーならどうする?

ローマ亡き後の地中海世界 下 ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話 マーブル・アーチの風 (プラチナ・ファンタジイ) 探索者 (海外SFノヴェルズ)



「ローマ亡き後の地中海世界」下   塩野七生  新潮社  ISBN:9784103096313

ワイルダーならどうする?」ビリー・ワイルダーキャメロン・クロウの対話  キャメロン・クロウ  キネマ旬報 ISBN:4873762367 C0074

「マーブル・アーチの風」  コニー・ウイリス  早川書房  ISBN:9784152089588 C0097

「探索者」  ジャック・マクデヴィッド  早川書房  ISBN:9784152089700 C0097


図書館司書のお姉さんに「これ上下巻ものだったんですねえ」と思わず問いかけてしまった。見かけた時が借り時という原則に従って、下巻から読み出すという羽目に陥ってしまいましたです。
備忘のために説明しておけば、この巻は徹頭徹尾「海賊」のお話であります。オスマントルコのスルタンは無敵と云っても良い程だった陸軍に対して、海軍は「海賊に外注」したんですね。スルタンの下は皆平等に「奴隷」という原則に則れば、海賊も実力あらば海軍のトップにだってなれるという「平等さ」がここで力を発揮した。おかげでイスラム教を信じる「海賊」は完璧なお墨付きを得たというからくり。
レパントの海戦、コンスタンチノーブルの陥落、ともう一点の三部作をどうしても読み終えられなかった自分ですので(多分読んでも忘れていると思う) あれこれいうほどのことはありませんが。
で、下巻がこうならいったい「上巻」は何の話なんだろう?頭を悩ませております。

ワイルダーならどうする?」は、その筋のお方ならば?涙に加えて涎が滂沱として垂れるようなもう最高におすすめの本。数多のインタビュアーを叩き出したワイルダーが、多分唯一最後迄受け入れて相手をした自身も映画監督である人が書いた本。何か余計に付け加えても仕方ない。本当に貴重な、いろんな意味で歴史を感じさせる良い本です。
映画についてのみならず「肌で歴史、時代を知りたい」のならば是非!

コニー・ウイリスを読む度に、老いぼれて歯が抜け落ちた犬のような気分にさせられます。
ハードSFというのに歯が立たない。見た目はとても食いつきやすいようにみえるのですが、どっこいこの芯には骨がある。
この骨の髄がまたとない珍味で、涎をだしながらしかし齧れなくてただ舐めているだけしかないという情けなさ。
ジャック・フィニイが書けばあんなにロマンチックになるのに、何故この人が書いたらこんなに骨のある話になるんだろう。不思議。

「探索者」
疲れた。後半なかなかよかった。在りし日のハードSFスペースオペラを思い出す、が、惜しい哉キャラクターが弱すぎる。
シリーズもので通常はパートナーの方が主人公らしいからそのせいなのだろうか。
語り手の女性キャラが「なんであなたがあんな上司の下で働いているのかわからない」と云われるという件があったが、ワシもそうおもう。
性的パートナーであるにしても、いまいちその「しがらみ」が理解できないおかげで、話までついてゆけなくなる。
AIを使ったアバターという概念とか、面白そうな要素はいっぱいあるのにと惜しい。あちこちたらい回しされて異星人と接触のくだりは ばっさり切り落とした方がぜったい良い。
後半あたりのアクションなんかや収拾のつけかたなどはさすがネビュラ賞のことはあるけれども。
ハインラインやシルヴァヴァーグの全盛のころは、スペースものは性的欲望臭いムンムンで辟易したことがあるけれど今になれば懐かしいと、いささか時代に遅れて活躍しているらしいこの作家さんの淡白さに出会って思う次第。