武徳会の剣道試合の7

ここで此の日の試合の記述は終わり。

漸くして、東の方に名原氏出づ、敵は武術の中心地、京に生湯を仕へし剛のものの泰然たる大刀のこなし、深き潭に月影を写す、打てば玉散る形なりや、暫時睨まへたるが、間髪の隙間やありしとも見ぬ間にやと打ち込めば此方の刀風生じ、敵の頭上したたか一本。

比叡嵐にさらさるる武陵々下の快男士、何かは以て怒らざる、一刀一刀切り込み、切り込み、勢猛に見えたりし、
仕ましたりと間合を計り、さッと四尺の紫電石火得意の横面音立てて又も一本合せて、勝負それまで、次ぎに卒業生勝田氏身仕度軽々として、既に気天地を呑む、されど見れば彼方に控ふる巨漢は天王寺の総大将あなどり難くぞ見えたりき。

猛虎一声山門を渡り殺気今や堂に満つつよると見るや早くも一上一下、柳に月の果て知るべくもなし、時なりし
が一振打つかと見ぬ間に御小手の一声、今一刀なり今一本の勝負が我校一体の責任の終局、嗚呼何人か息を殺し
汗をにぎりて見ざらむや。
敵もやはか無残無残打たれむやと、獅子奮迅の大刀真甲にやッと進まむ其時、あれよッと見しかそれと分かぬ間に、御胴一本占たりと雲井に高き驍名は敵も味方も余のものと稱歎の声暫時止まず、嗚呼我校の選手は遂に勝ちぬ、武徳殿上殿下、島根県中の名声響く事雷の如し。
次で一本勝負有り、吉木氏御突のみ八本まで功を奏せる実に舌を巻かしむ勝田、山内、野村各勇壮に働きしも筆能く尽さざれば略す。
全勝万歳   撃剣部万歳
嗚呼吾人はしきりに喜悦を禁ずる能はざりき。