麗子と麗子像

肖像画の不思議 麗子と麗子像



肖像画の不思議 麗子と麗子像」   岸田夏子編著 求龍堂 ISBN:9784763009104 C0071

ちょっと絵に興味のある人ならば一度は目にした事のある筈の、岸田劉生「麗子像」。
気味悪いくらいの印象的な絵ですが。岸田劉生の代表作というか有名な連作ともいうべき、自分の子供をモデルに描いたものです。このモデルになった「岸田麗子」の生涯と、岸田劉生の生涯を重ねて麗子の娘「夏子」が語る。

眺めながらなにを考えるかというと、要点からはちょっとずれたことなのですが。
岸田劉生は高名な企業家、当時の大富豪といってよい家に生まれた7男7女の兄弟の一人。この兄弟の数にも圧倒されますが父は晩婚で14才の時点で既に両親が亡くなっている。
彼は16才で家を出て、結婚すれば長兄からの援助はなくなる約束。
画家になるという決心をして22才で結婚「麗子」を得、子供を書き始め38才で亡くなる。
この時、麗子は16才。突如彼女は母親と二人、自活することになる。
こういう経過を見ると、いくら大富豪とはいえその子弟の経済生活が確保されていた訳ではない事が理解出来ます。

「世間は甘くない」と当然の事ではあるけれども、今回思ったのは「(個人のために)正しいとか正しくないとかで世の中は回っているのではない」ということ。
「社会のしくみ」というかそういうものは、個人の幸不幸とは別個のところにあるのだなあと。
ある意味、蝶よ花よと何不自由なく育った分落差と悲嘆ははげしいものであろうと。

長寿が当たり前になった現在からみれば、38才の人生は余りに短い。が、あっという間であるからこそ激しく駆け抜ける勢いもあるのかもしれぬと考えるこのごろ。
凡人にとって馬齢は良いことか悪いことか、こういう判断もまた人生には関係のない事か(苦笑)
岸田劉生の関わった白樺派は、理想をかかげながらそういう冷徹な社会のなかで咲いた一つの徒花であったようにも思えてきました。お坊ちゃん達の、道楽。
「お金は大切よ。外国に行こうと思ってもお金がないと行けないでしょう」と子供を諭したという麗子さんは、さてその中で何を見たのでしょうか。