f植物園の巣穴

人間ジョージ・オーウェル〈上〉 人間ジョージ・オーウェル〈下〉 f植物園の巣穴


「人間ジョージ・オーウェル」上 マイクル・シェルダン 河出書房新社 ISBN:4309202896 C0098

「人間ジョージ・オーウェル」下 マイクル・シェルダン 河出書房新社 ISBN:430920290x C0098

「f植物園の巣穴」  梨木香歩  朝日新聞出版  ISBN:9784022505880 C0093

遠い昔に「1948年」は読んだのではないかという覚えはある。それより衝撃的だったのがレイ・ブラッドベリの「華氏○○度」(数字覚えられない性質)で、これはTVで映画を見たせいだ。既に活字中毒となっていた自分には恐怖の念強く身につまされるところのもので「1948年」の印象は覆い隠されてしまっている。「動物農場」も義務感の方が勝って手に取ったものの一冊の筈だが、読み終えられた記憶がない。というわけでジョージ・オーウェルには縁が余りなかったのだが。


この「伝記」はかなりの面白さだった。パブリック・スクールとその前段階の寄宿学校の関係、大英帝国を支える官僚養成機構のしくみなど非常に興味深いものがあった。パブリック・スクールについては、岩波新書に池田潔「自由と規律」にその精神が詳しい。イギリス紳士の精神的規範および「伝統」みたいなところはそうそう根本は変わっていないだろうし、ちょっと考えれば池田潔とこのジョージ・オーウェルの歳はそう違っていないことがわかる。(少なくとも自分たちよりは)
イートン校でフェア・プレイと人権の概念を身体で叩き込まれた彼が、植民地印度で警察官僚として治安とアヘン生産周辺の仕事に携わるという矛盾に分裂してゆくという過程など、彼自身の中に胎胚された矛盾との葛藤によって生み出された主題との関係がよくわかる形で描かれている。
物語として「動物農場」を読むのは辛かったけれども、違った面で読むと別かもしれない。といいつつ、ゴールデイング?の「蠅の王」がどうしても読めない自分だし。ちと辛いな。「パリ、ロンドン放浪記」の方が読めるかも知れない。アーサー・ランサムアンリ・トロワイヤ?の本は読んで面白かったし。かれらも多分同時代の人といって良い作家たちだろう。で、結局「1Q84」は読まないんだなあ、きっと。なにか村上春樹に恨みでもあるんだろうか?自分でも不可解


梨木香歩さんはお久しぶり。「家守奇譚」タイプのはなしにあたる。くつくつ笑いながら読んでいた。文章が心地いい。漱石の猫に似る面白さ。しかも「眼に美味」な文章、言い回し。いつぞや「家守」をラジオで朗読だかドラマ仕立てでやっていた。これも是非「朗読」でやって欲しいと切に思う。できれば「波平さん」の声をやっている俳優さんだともっといい。癒しの作品でした。いちど「薬局で働く犬」など見てみたいが、流石に患者には不安だろう。ところで「猫の手」ならぬ「犬の手」でどうやってものを握る?あ、猫も犬も一緒か。