7号 波間の千鳥の3

さて第一日目の後半です。6回を終えた所で風向きが変わります。
そこを圧して7回は撃剣部と柔道部のたたかい。ボートの経験は無いが腕っ節にかけてはいずれも劣らぬ剛力揃い。現在ではオールもカーボン製で独りで持つ事も出来ますが、一昔前までは木製で到底独りで担ぐ事もならないような重量のものだったと二十年前くらいの経験者に伺ったことがあります。それをぶち折りかねないと冗談にでも言われるような学生というのも怖い。フォームはいざしらず勇壮な漕ぎっぷりだったでしょうね。
第8回をというところで風はいよいよ強まり中断。翌日に持ち越しとなります。例年この季節山陰はものすごい風が吹く事が多く、天気は不安定になります。荒れた宍道湖は浅い湖底から土が撹拌されて色が変わります。

第6回
赤2年
白4年
同速力を以てスタートを出でしが200メートルにて白一艇身を抜き赤愈々乱調子となりて800メートルに至
り二艇身の差を生じ決勝点に於て二艇身半を以白の勝4分31秒


今迄朗ろかなりし天気は一点の雲を生せざりしも風吹きかはりて漸く波高く遂に午後に至りてレースが出来るや否やを疑はるる迄に為りしが押して第七回のレースを行ひぬ今回のレースは当日一番の滑稽のレースにして未た短艇に経験のなき撃剣部、柔道部の荒くれ男が大の腕を以て力委せにヲールを引奪る故にヲールの代りを二三本余分に持って行けと云はるる程に剛力揃ひの選手なり


第七回のレースは初まれり赤柔道部、白撃剣部スタートにて赤猛勢を以て漕ぎ出しが白は鷹揚として悠然と漕げば赤は愈々力を入れて漕ぎ一艇身を抜きて白危く見えしが尚同一調子に働きて決勝点の勝を胸算して余力を養しか300メートルの所にて一人が波にあまされて痛たや腹きりをやれは後の者は御蔭にて漕ぐを得すあーあーと云ふ中調子一本遅れて赤は二艇身を抜いて形勢定まらむとせり


されば白はハードを以て取り返へさむと目覚ましきハードを漕ぐに赤何処の邊よりか調子乱れ見にくくも形勢危かりしが白は不時の誤りにて遂に挽回するを得ずして赤の勝となりたり
されど終始好調子を以て悠然たりしはさすかに威服の外なし4分33秒


第8回のレースを続けむとせしに風は愈々吹きかはりて到底レースを続くる見込もなかりしかば飽かぬ別れをな
して明日早々始むる事となし見物の舟は散り散りに帰りて汽船は黒煙を嫁ケ島に残し波を蹴り大橋さしてプー