7号 柔道試合の4

柔道試合は今回で終了。この後に「短評」がつづきます。年の瀬になってばたばたしているので今年はもう書き起こしの更新は無理かも。あしからず。

15   幸田 秋平    16  ○  吉本 源造
   ○○ 山本 邦三        石原 権三郎
17  ×○ 日森 大受   18  ×○ 清水 幸太郎
   ×○ 酒井 甚之助      ×○ 黒田 與太郎

(15)起倒流のそれならぬ渋川蟠竜軒の再現かと称へも高き山本氏優しの敵の振舞かないでその分ならば容赦はせいと破竹の勢寄せては砕けては寄せ来る濱波飄々として天つ乙女が舞を奏するが如く猛虎の寒月に○か如く名士と名士との得意の早業幸氏の足払あなやと思ひし間一髪山氏もさるもの危く残り、入り乱れ、一上一舌風飄々互に秘術を尽して戦ひしが如何なる隙のありたりけむ山氏の背負投美事一本幸氏やや残念しつつまつたりなと飛び来る機や濱嵐又も一本花の蕾も散り失せぬ
(16)当代の名将石原氏氏から名声は夙に郊外までもあふれ渡り、その一上一下は悉く吾人の注目する所吉氏亦一世の雄士たり両々相対する状恰も獅虎の相睥睨するか如く双龍の相闘ふか如くにして石氏の足業幾度か成功せむとせしかど如何なる機みか吉氏の腰投一本とはなりぬああ勝敗は天の命数かあはれ平素の妙技も何所にか潜みけむ石氏負傷して止みぬ
(17)正々堂々何れ劣らぬ有士の面々鬼 神たりとも打挫すべき態度を以て蕭々と進む流石は老練鵜の毛程の隙もあらばこそ暫しは睨み合の姿なりしか機を見るは雄士の常、酒氏の猛烈なる足払、ひらりと空に打たせ平素の鍛錬表すべきは此時と猛獅の勢それならぬ秘術を尽して戦ひしか酒氏の横捨身氏の背負投各功を奏して引分けとはなりぬ
(18)最後の決戦は来たりぬ萬堂粛々として両雄士を俟つものの如し清氏は校中一の大男子魁梧たる、その状は力士の如く○力は以て山を抜くべく而も一度狂ふや龍躍虎○正に夭柱をも砕かむとす黒氏や小作の痩形なれど我校第一の老練士、技の奇麗にして體の軽快なる正に之清氏と好一対の敵手なり今や両虎相睥睨して初めに清氏の背負投は美事一本と思いの外ひらりと体を打ちかはし立ち上りざまに衝き入りしが清氏もさるものさはさせじとその虚に乗ひ被ぎ投げあはれと思ふ間に又立ち直り右よりすれは左に隠れ前よりすれは後に顕はれ翩々飄々挑み合ふ様は燕の柳の枝を縫ふかごと其疾き事は稲妻か玉を争ふ双龍の雲を起し風を捲き戦ふ中に髪一筋の虚を衝きて清水氏の腰投流石の黒氏も倒れしか審判者の声と諸共に立ち上がりしと思ふ一瞬間電光石火清氏を背負ひ堂とはかりに投げ返しし手並の程に拍手の音と喝采の声は満堂裂けむはかりにて暫しは鳴も止まざりけり。