アウシュビッツの回教徒

スノーボール (下) ウォーレン・バフェット伝  アウシュヴィッツの〈回教徒〉?現代社会とナチズムの反復




「スノーボール」下 ウオーレン・バフェット伝  アリス・シュローダー 日本経済新聞出版社 ISBN:9784532353902 C0033

アウシュビッツの<回教徒>」現代社会とナチズムの反復 柿本昭人 春秋社 ISBN:4393332415 C0036


同じくらいの厚さの分厚い本を同時に読み進めようとすると当然ながら頓挫するという良い例。


バフェット氏は後半になると企業買収が主であって、その業種としての企業倫理とか其の企業で働く労働者についてはもう殆ど関心のない状態が常態となるという、いわば「投資家」としての側面があらわになって来てそれはそれで面白い。五十代ですでに億万長者に上り詰めながら、しかし家族が幸福であるとは限らないと言う当然のことに気づかない。金を稼ぐ=幸福の追求にはならないらしいという人生の教訓かもしれない。まあ大概はお金持ちに説教する人はあんまりいないとは思うが。


特にスキャンダルとして見られかねない事実の記述についてもとくに「検閲」をなさらなかったらしいところは、やはりどこか超越しておられるのか。というよりなんだか此の方高次性機能障害の例のようにも思えるのだが、無論これだけの金を稼いで成功し結婚生活も営んで繁栄しているのだからそれが何だと言えなくもない。成功したレインマン。といったら叱られるかもしれないけど、それはそれでいいじゃあないかということでもある。面白いなあ。非常に。


アウシュビッツ」の方は、はじめ著者を外国人のホロコースト関係研究者と勝手に思い込んでいた。が、読み出したらあまりに流暢な著述でよくよく見たら日本人。で更に読み続けたらこれはアウシュビッツ関係を記述したものではあるがしかしその内実は、「差別の構造と過程」という普遍的な問題を論ずるものであったのに驚いてしまった。最近読んだ中では多分五本指の中にはいる「眼から鱗」本。ともかくまず「前書き」だけでも読んでもらいたい。とくに「いじめ」にあって悩んでいる方に。個人的には、S・キングの「ゴールデンボーイ」を読んでなんとも「居心地の悪い思い」をした経験が心の結ぼれになっていた。その理由の一端をおもいがけなく解き明かしてくれたと言う意味で驚きがあった。


「見る」と「眼差す」という意味の違いなど、あるいみ哲学的なきがするのだがしかし、この本には「論文」としての記述のみならず「個人的な思い」というか何か学問とは別のプラスαがあるように思えてならない。良書なのだと思う。こんなに読んでいて「啓発」される本は久々である。問題は自分がそれを継続できるかどうか。