あるいは西部の夕陽の赤さ

ブラッド・メリディアン



「ブラッド・メリディアン」  コーマック・マッカーシー  早川書房 ISBN:9784152090935 C0097

R・R・マーテインと同じ香りがする。
南米文学と聞いたときにいつもそのバックには「狂躁」とでもいうべきような音楽が流れているような気がするのだが、このマッカーシーのバックには音が無い。
ザ・ロード」の時もそうだったが、シンと冷え込んだ空気があるのみ。
舞台は沙漠の続くアメリカ大陸ではあるのだけれども。延々と繰り返される殺し合いの背後には、じつはイデオロギーも精神も何も無い。
空虚のなかでただただ殺し合いが繰り返され、その中心にいるのが「判事」と呼ばれる禿頭(とくとう)の男。
物語は14才でこの男の率いる騎兵隊に加わる「少年」としか名前のない子供。
凄惨な虐殺シーンが繰り返され、騎兵隊は移動する。ただそれだけの物語と言ってもおかしくないのだが、読むのをやめられない。
誤解を恐れずに言うならば、その文章、景色、凡てが「うつくしさ」を感じさせる。
「20世紀後半のアメリカ文学屈指の傑作」という評価が出ているらしい。
基本的にアメリ現代文学には疎いし読んでいないのだが、コンラッドの「闇の奥」もこんなんなのだろうか?
禿頭の判事、マーテインの「タフの方舟」のタフのイメージが重なって抜けない。