虐殺器官

烈日―東京湾臨海署安積班  虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)  スカーペッタ 核心(上) (講談社文庫)  スカーペッタ 核心(下) (講談社文庫)  シモネッタのドラゴン姥桜



「烈日ー東京湾臨海署安積班」 今野敏 角川春樹事務所 ISBN:9784758411660 C0093

虐殺器官」  伊藤計劃 早川書房 ISBN:9784152088314 C0093

「スカーペッタ 核心」上 パトリシア・コーンウェル 講談社 ISBN:9784062768375 C0197

「スカーペッタ 核心」下 パトリシア・コーンウェル 講談社 ISBN:9784062768382 C0197

「シモネッタのドラゴン姥桜」 田丸公美子 ISBN:9784163709505 C0095

読んでいると心和む安積班。今回水野刑事が加わりました。そほど。



虐殺器官
相当話題になっているらしき作品を読んでみる。目黒さんは絶賛だったか?あまりの早世が悔やまれる。これがデビュー作なのだから超新星のような新人が現れたといっても過言ではなかったろう。ちょっと気になったのは、この作品の示しているイメージを読者がどこまで捉えきれるかということ。高校生あたりがイメージを正確に描き切るのは難しいかも。ある程度の「教養」を蓄えた年代でないと「何いってるのだかわからん」状態になる虞れを感じた。京極夏彦みたいに「蘊蓄を逆手に取って読者を煙に撒きついでに呪術をかける」という高度な技術もあるのだけれど。基本的に面白ければ読者は勝手についてくるし自習もするけど、あんまり不案内なのも何だし。

たとえばどこから「ボルヘスの絵」という話が出てくるのか、と一瞬戸惑い。(経歴を読んで納得。多摩美出身の美術畑なら当然「常識」の範囲内)ある程度美術の知識がないとそこから某かのイメージを想起するのは無理なのではないか。マイナーな画家とは言わないが、中高校生にそれを求めるのはあんまりなような(一般の大人でも?)。そのような感じで「借りて来た言葉やイメージを持って来て埋める」部分を気にしつつ読んでいたが後半は気にならなくなった。読者の「常識」と作家の「常識」がぶつかって折り合いをつけるわけだから、表現というのは難しい。


星新一」が「古びない表現」を求めて試行錯誤していたという話を思い出させる。この作品は読み継がれてゆくだろうか?作者が早々に退場してしまった後でも。若い年代に好まれそうなパラレルワールドを舞台にした作品なので、余計にそう思う。

それにしても久々にハードなSF読んだ気がする。文体のせいなのか、なんだか翻訳物を読んでいるような感覚に捕われた。
しかし主題からして米国作家が書いたらまずい、ってか絶対に書きそうにない話です。終盤である程度落ちは想像出来たが、そこに至る「心理」の転換が見事だった。これは相当の作家でないと書けないだろうと感心。


「核心」
スカーペッタ!ああスカーペッタ!
久しぶりに読んでいて認識。このシリーズを読む体力が自分にはなくなったらしい。ルーシーだのベンソンだのの葛藤を読むのが面倒って、それってはじめから読む意味ないしと言う奴である。どうもジェフリー・デイーヴァーのジェットコースターにばかり乗ってしまって、各駅停車に乗って周りを楽しむ余裕と体力がなくなったと言った感じなり。やれやれ。話に出て来る最先端のIT技術についてゆくので精一杯だった。



「ドラゴン姥桜」
東大目指す「お母さん」の生態、そこまで書いていいのか?!と言う気がしなくもないが、息子は既に就職しているから良いのか。しかし、この本を読んだ息子がどんなリアクションをしたかと想像しようとしてもしきれない。親子三人漫才やっているような気がしなくもないが。「とびがとびを産んだ!」というおことばの真意はいずれにせよ「口の減らない母子像」というのだけはしっかり描ける。抱腹絶倒の話でした。まさか本当に「親子で記念写真」?さすが東大。笑えない。

あのう、一般のひとでも買わせて戴けますか「東大饅頭」?