ロードサイド・クロス

家蝿とカナリア (創元推理文庫) 伊藤計劃記録 ロードサイド・クロス



「家蠅とカナリア」  ヘレン・マクロイ  創元推理文庫 ISBN:4488168043 C0197

伊藤計劃記録」  早川書房ISBN:9784152091161 C0093

「ロードサイド・クロス」 ジェフリー・デイーヴァー 文芸春秋 ISBN:9784163297200 C0097


古典の匂いのする現代推理小説。時代背景が第二次世界大戦後?なのに何故か近世みたいな気がして。「この時代にそれはないだろう」と一瞬つっこみたくなるアイテムが出て来るのだが、よく考えると劇場の電飾照明あって当然の時代背景なのだった。どこかクリステイの若い頃、ポワロが活躍していた頃みたいな錯覚(?ポワロはベルギー難民なのだから合っている?)
それでいて古色蒼然としたトリックでもなし。不思議な感じのする、見事な作品。面白い作家である。


伊藤計劃
前段の虐殺器官と一緒に借りてきたもの。確実に自分とは「世代」が違うのだということを認めざるをえず。
押尾守に心躍らせ、と言う時点で彼にとってこちらは前時代の人間であるということがあらわになる。延々と殺戮ゲームのような描写がつづくのを読んでいると、シューテイングゲームに明け暮れる小学生が育ったらこんな風な感覚になるのだろうか、とふと考えてしまう。(考え過ぎだろうけど)「売れるゲーム」を追求して巷に溢れさせてしまう「大人の事情」とやらを考えれば、それが子供のせいではないにしろ。
僅か2年間だったという作家期間。病に斃れることがなければ、この作家の世界はどのように発展していったことだろうかと考えつつ、やはり想像が及ばない。


こんな陰惨で救われない物語を読んでいる最中に、現実の惨禍の情報を知る。
「ぱっと剥ぎ取ってしまったあとの世界」
原民喜の表現が頭のなかをよぎる。(原民喜「夏の花」青空文庫所収)
さすがにこの惨禍を前にして伊藤計劃の世界に没入することは神経がもたないので、今回は断念。

こんな時にはジェットコースターに乗るのが一番と、めっけた「ロードサイド・クロス」に乗ってみる。
おおよそのところは読み取れているわねと自画自賛。この作家のお話は惨すぎず陰惨すぎず、しかも色事もあっさりしているので読んでいて安心出来る。スカーペッタとちがってネットの世界の紹介の仕方がさりげなく判り易く効果的に書かれているのでストレスなく読める。
上手いなあと舌を巻く。リンカーン・ライムシリーズではFace Bookのこともとても判り易く説明していた。下手なIT関係の入門書よりはるかに面白く役に立つ。(悪い意味でも、だが)
Burning Wireも面白いのだろうなあ、が、Under The Dome進んでいない。キャロル・オコンネル新作出ていないかしら。かといって「愛しい骨」を読む気になれず。
デイーヴァーの邦訳に難は感じないのに、オコンネルの邦訳がどうしてもしっくりいかないのは何故だろう。
今狙っている本は宮部みゆきの「ばんば憑き」。「あんじゅう」は新聞連載時に読んでいた。このさいまとめて読むと改めて楽しいか。