三匹の豚とわたし

ジェノサイド  犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ   密売人  相性  飼い喰い――三匹の豚とわたし



飼い喰い」三匹の豚とわたし 内澤旬子 岩波書店 ISBN:9784000258364 C0036

「相性」 三浦友和 小学館 ISBN:9784093882125 C0095

「密売人」 佐々木譲 角川春樹事務所 ISBN:9784758411769 C0093

「犬として育てられた少年」 ブルース・D・ペリー マイア・サラヴィッツ 紀伊国屋書店 ISBN:9784314010610 C0011

「ジェノサイド」 高野和明 角川書店 ISBN:9784048741835 C0093


飼い喰い
体を張った実験的ルポルタージュ。以前読んだ「世界屠畜紀行」の著者が、今度は三頭の豚を飼って育て上げ屠畜して実際に喰らうという趣向。
そもそも飼うための家と豚舎を創る所から始まるというのが第一歩。まさか都会では飼えないから田舎に場所を探すのだが、なんと彼女はペーパードライバー。必須であるクルマの運転からして絶望的なお手並み。それでもなんとも貫徹してしまう所のエネルギーたるやこれは或る意味超人なのではないか。とさえ思える。体力のない虚弱体質が100キロ近くまでになる豚を三頭も扱わないといけないわけで。
なんだかだとやりながらも、三頭の豚に対する「愛情」がひしひしと伝わって来る。読みながらインガルスの「大草原の小さな家」を思い出していた。そういえば先日読んだキングの1922だったか、あれもアメリカの乳牛を飼う農場の話だったのだった。下手な小説より数段面白くもあるし、一度読んでおいて絶対損はない。「雑食動物のジレンマ」読んで恐ろしい思いをした後なら尚更。


「相性」
山口百恵とは多分同級生の年代の自分。特にファンだったわけでもないのでその恋人とかいう三浦友和という人物にも当時興味があったわけでもなし。えらく清潔感あふれる正統派いい子みたいな外見であると思っていたけれど、このインタビュー読んだらそうでもないらしい事を初めて知る。そうだったんですか。でもやはり「まっとうな感覚の人」であることはよくわかった。


「密売人」
「うたう警官」シリーズのメンバー。なにゆえ「密売人」なんていう題名にしたのかちょっと自分には不明。佐々木譲はこういう複数の登場人物による連携の話運びが上手いのがよくわかる。場面の展開はスムーズだし視点が替わっても違和感なく、話がぶれないので安心して読める。てなわけで、このシリーズの好きな人には楽しめる一冊。この分ならばまだまだ続きそうである。


「犬として育てられた少年」
精神医のカウンセラー的視点から書かれた実録ものは結構あるのですが、これは「幼児期に与えられた虐待によるトラウマ」によって起きる「脳の機能障害」甚だしくは「萎縮」を解説した本です。
幼児期の環境のためにどんどん「脳の発達障害」が起こり、それが「精神障害」の域となって現れて来るという話。そこからカウンセリングしてなんとか正常の域に暮らせるようになった患者、十代半ばで凶悪犯罪を犯し死刑囚となった少年などさまざまな人を語っている。なんというか、親になる前にいちど読んでおいた方がいいんじゃないか。この患者達の親の半分には悪意はなく、単なる「無知」によって子供にトラウマあたえてしまっていたと書いてある。
ベビーシッターの選定の誤りというのは別として、標題になった「犬として育てられた少年」なんかは、親も祖母も亡くなりドッグブリーダーだった祖父が子供の育て方が判らないので、「犬と一緒に檻のなかで育てた」などという話もあり。
「乳児期に養育者との身体的接触を断った状態で育てられると、脳の機能が正常に発育せず萎縮する」というのは、CT、MRIスキャンの時代でないと発見出来ないですね。


「ジェノサイド」
前に読んだ幽霊人命救助隊は完璧に忘却の彼方。ただ、脚本家が書くとなんだか軽い読み物になるのか知らんという印象だったのは覚えている。
が、今回は忘れられませんね。化けました。自分の好みかどうかは別として、ほとんど完璧なSF(なのかな?)
あちこち絶賛の声を聞いたのはなるほど当然でありました。物語に違和感なし、破綻なし、結末の着地も美事に決まりました。滅多に出会えない傑作の一冊。エンターテイメントであります。唯一堪えられないのは少年兵士の件ですが、これは現実に起こっている事ですので自分が文句をつける筋合いではありません。

やれやれ梅雨いりとは。雨か?