第八日目の1

眠ったのか眠っていないのかよくわからないうちに夜が明けて、蒲団の中で雨が軒を滴る音を聞く。また雨か。雨戸を開けると襟元に落ちて来た雨粒が冷たい。彼方の薮陰に2、3軒の家の煙が、風もないのでかきみだされもせず立ち上っている。
9時草津に着き、船を雇って厳島へ詣でる。もはや舟歌も聞き飽きた。10時過ぎに目の前に大鳥居が見えて来た。以下厳島の伝説。

お隣の県で随分長く暮らしているが宮島には行った事が無い。ベタな冗談のようだが大人になるまで「秋の宮島」だと思っていた。あの世に行く迄に一度行ってみたいものだ。かくもささやかな我が日常。
週末忙しいのでつづきは週明けの予定。不請期待。

眠れるにあらずさめしにあらず、○然床中に横はりて未た起きなんともせぬ耳に、点滴軒端に音するをききて、起て戸を排すれは満天全く曇りはてて霏々として下る春雨いと淋しく、そぞろ旅客の腸を断つ、結束悉く終れは雨をつきて市街を西し、古松亭日として連なるの下を辿るに雨滴襟に入りて冷を覚ふ。彼方の薮陰に二三点の茅屋 より立ち上る朝炊の煙雨にうたれて、消えもせず散りもせで逍ふいはん方なく面白し。

9時草津につけば、戎衣 ひたぬれにて心地いとあしきに、之より船を雇ひて厳島勝景をとはんとて出づ。櫓声既に珍ならす舟歌もまた殆 んとあく。見渡せは遠の島山濛雲低くたれて波静かなり、10時をすくる頃、漸く近く水中に一大華衣の突立つをみとめぬ、雨もやかて晴れて雲間に碧なる空も見ゆめり。


厳島」(「」傍点)、水晶盤上の玉楼とやいひけむ、玉の御池に潮盈ちて百八の廻廊日昇れは、宛然波も金輪を 躍らして素娥来り舞ふ實に日本三景の一として普ねくその名を人口に膾炙せられたる厳島廣島を去る四五里の 海中に位し、四時の風色殆ど語に絶す。


厳島神社は市杵姫命、思姫命、端津姫命の三神を奉祀す、伝へ聞く、推古帝の御宇安芸の人佐伯鞍賊翁一日この 島に釣る、偶々見る紅帆の美船五雲をわけて来るを、舳に朱弊をたつ。三神麗顔殊にうるはしく玉手をあげて翁 を麾ねくものの如きに近づけば、玲瓏たる御声珠玉を転ばして命は徐ろに宣く、妾はこの島に百玉を鎮護するも の、爾宜しく奏して宮を造れと。翁乃ち許されて霊烏の導くに従ひ地を此の濱に相し、社を建てる以て祀る。