大仙行その4

第二日目である。大神神社に詣る。次に権現さま。残雪がまだかなりある。
「きりわけ」の偉観を見る為に河原へと降りてみる。この日は天気が良く弓ケ浜の向こうに島根半島まで見えたらしい。
大山寺近くの豪円山スキー場あたりから、天気がよければこのような胸をすくような風景を見る事ができる。
一度見たらなかなか忘れられない壮観である。
また大山頂上もくっきりとみえることはあまりない。この日は彼等も運がよかったのだろう。
さて9時40分ここをたっていよいよ船上山へとむかう。

15日。晴、
大神神社に参でむと石階を登る際、亭々たる老杉の石碑を見るこれ元弘当時の忠臣大僧正源盛の碑なり、それより登り行けは、数囲の老杉鬱葱として立ち並ふあたり、丹青のいろどりいと物古りたる社殿あり、その正面には「大神山神社奥宮」と題せる有栖川二親王の額面あり、俳句の額は廻廊両部に掲けられたり、

このあたり雪は消えさるのみか積るもなほ六七尺許なり、嗚呼花笑ひ鳥歌ふ、のどけき此頃にひとり春に後れたるを見れは、北風凛冽膚を劈く厳冬に於ける光景はそも如何はかりならむ、


それより大智明大権現に参詣し、二三の友と倶に「きりわけ」の偉観を望まむと雪を蹴て下る此のあたり巌塊○○たる河原にして水は只其間えお走り岩にせかれて静かに声あり、仰げば百尺の断巌対峙し将さに倒れんとして漸く支ふる如く、いと壮絶の観なり、遠く眼を配れは弓か濱は遥かに薄墨畫の如く、末は一帯の雨霧に消えたるを、島根半島の山々ほのかに見えて夢の如し。


下りて背後より之れを眺むれば、○?たる巨巌両側に相睥睨しつつ、将さに戦はむとするか如き状心骨為めに冷かなるに、大仙の大峰は白妙の衣を着げ、風に煙霞の帯をひらめかしつつ、静かに其間より笑へるが如く見ゆる、彼のやさしき女の容姿に似たり。


それより洞明院に至り当山の宝物を拝観せり。
五大尊…巨勢金岡筆。  不動明玉…兆典主筆。  細字法華経…菅相丞筆。
書翰…弁慶筆。   瀧見観音…安信筆。  文殊普賢…雪舟
不動尊…文朝作  牛の玉。  天狗爪。   鬼の牙等
枚挙に遑あらす、


9時40分此地を発し道を東方なる船上山に取らむと羊膓たる草径に入り、或は登り或は下り或は残雪にスベリを試みなどすること幾十度にして、12時遂に芝上に坐して行厨を繙く、崚?たる角盤の霊峰は目前に聳えて高やかなり。