仁多地方行軍の7

以下戦闘の詳細。戦闘準備完了、敵をまちかまえるところに黒い人影。あれは敵か、いや「野次馬」かとひそひそ会話をしている姿を想像して可笑しい。稲を架ける稲架がまだ分解されいていないらしい。流石に稲は掛けてないだろう。

出雲地方の「はで」(はぜ?いわゆるズーズー弁で発音がまぎらわしいので)は丸太を組んで棚の様に何段にも掛けるので高さがある。自分の育った所はモネの絵にあるような稲を積んで家の形に似たものにしたり、腰の高さに組んで一段のものだったので出雲に来たときには大掛かりな様子に驚いた覚えがある。
稲を干すやり方には地方地方のやり方があるらしい。ただ最近は機械式で即脱穀というのが多くなった。農家の人によると天日干しにしたほうがお米は美味しいという話である。

多勢に無勢で苦戦しているのはどこか作戦にまずいところがあったのか。
それにしても、やっぱりこういうのを見に来る「観覧の人」はどこにいたのだろう?

次で第一小隊より戦闘斥候を坂下の一林に派し、以て本隊の左側援護に充て、傍ら米山第三小隊長をして兵を後丘に伏して敵の攻圍に備へしむ。


我軍陣形既になりて敵や遅しと待ち構ふる折しも、遙かに雨足を隔てて眺めやる桜川堤上、小霧はだれに黒影参差としてほの見ゆるよ、我は敵兵よと叫べば、三小隊の陣頭に立てる神田小隊長また次で叫ひを返しぬ。然れども説をなすものあり、観覧の人衆にやあらんと。

言未だ終らざるに、山腰植林の中に悠然として煙草燻らしつつありし我中隊長は、双眼鏡をとるや否や、敵兵つ!と叫びぬ。然れどもその声や泰然として併も英気溢る。


それと等しく列兵は銃とり直しぬ。忽ちにきく我前衛より派せる斥候が、稲架を利して放てる恐ろしの一発を。続て一発又一発、見る見る白煙湧然として上る所、雨ますます強うして硝煙空に漂ふ、嗚呼何等凄愴の光景ぞ。

果せるかな黒帽の一隊既に約八百メートルの前方に展開し、しばしは砲煙弾雨交々相対して両軍互に鎬を削る。然れども思へ我先陣僅かに一個小隊を以て数倍の敵兵に接戦す。衆寡もとより敵すべからず、空しく涙をのんで本隊に逃れ帰る。時は引野小隊長が率ゐる敵の二小隊既に久野河畔を占領し、木下小隊長また第三小隊長は将として桜川の左岸に沿うて進む。

乃ち我第三小隊を山麓の桑畑に展開せしめ、第二小隊と共力頗る力せしむ。宛然是敵兵を下瞰するの観あり。敵兵またその據るに地なきの故を以て進むや最も難きが如し、

嗚呼「白刃交兮宝刀折、両軍蹙兮生死決」此時ぞ、交戦時餘にわたりて我軍弾正に尽き、銃熱してまた採るべからず、然といえども丈夫玉砕を尚ひ瓦全を恥づ、屍を馬蹄に埋る寧ろ男児の栄ならずや。