日本人の4

このカーペンター氏はかなりの日本通である。たいへん礼儀正しい。
どこだったか、「日本は子供を大切にする国である」と記述していた本は。まあともかく、西洋の中流家庭では乳母を雇って子守りというより育児全般をまかせ両親は子供の顔を見るのは朝夕だけ「謁見」するなどという話もあるようで。
被雇用者とはいえ乳母は子供に大して絶対的な権力をもち、中には虐待される子供もいたような話がサラ・ウオルターズの本なんかにもありましたなあ。3才以下の幼児は言ってきかせても理解できないから獣と同じという理屈とか。
とおもえば日本は天国に近いか。すくなくとも親の眼は行き届く距離に子供は居る。


玄関に近づけば小き下女はツカヅカと前に進み来り跪きて床に手を広げ小き頭をさげて余等に敬意を表したり、
下女は靴を脱ぎて這入るべきをいふ、日本人は決して家の内にて靴を穿たず、それは余等は脱ぐとしても帽子を冠り居る事は礼なりと思ひたれば靴足袋の儘にて家の内へ這入り座布団の上に座りたり。


間もなく家内の人出で来りコツコツ頭をさげて膝に手を着け再三床に腰をまげ起きるや声高なる半ば囁くやうなる声して息を吸い込む、


恰も我々が訪問したる名誉に堪へぬといふ風に見ゆ、我々もまた返礼として頭をさげて
同じ事をすれはやがて下女は日本にては誰れにても煙草を吸ふものと予想せらるれは小き箱にパイプに火をつく
る為めの火を入れたるを運び来りたり。


下女は次に小き盆を我々の前の畳の上に置く、それには土器の茶瓶と恰んど卵の殻を半分にしたる位なる大きさの小さき茶碗とが五つ六つばかりあり、跪いて一礼して下女の勧むれは我々は茶が好きなりといふ事を示す為めに音高く茶を啜りて日本的風姿にて飲みたり、


やがてうしろの方にて遊び居りたる子供はここに来れり子供はいづれも例の仕立の着物を着て同じ方法にて我々に礼する子供等は行儀正しく日本にては悪小僧を持つは親に取つては非常なる恥辱にて子供の名誉は直接に親の名誉にかかれはなり。


母は小供の一人を抱きて己の頬をこすりつけたり、そは日本人が愛情を示す方法にて男女の友達仲間にて?々互に他の肩または腰に腕をくみて歩き、而して家族は互に愛情を示せども接吻もまた握手もせず。

子供は背に人形を負ふ、かくして小娘は赤児をつれありくまた母は?々赤児を背に結ひつけて歩き子供もまた同じく人形を以て背に結ひつく、これは子供が生長して小き妹を子守せよと教へらるるなり。而して余等が市中を散歩する時に往々小供の背に赤児を負うて行くものに遇ふ、背の赤児は四国の大世界を眺めて疲れては肩に頭をなげて小き女の児の泥饅頭を造り或は舞踏し或は他の遊戯をなす間すやすやと眠るなり。