7号 撃剣大会の6

ここに円月殺法はまだ編み出されてはおりませんが(笑)、よくぞいちいちこういう仕合を著述できるもんだと感心致します。そこは同じスポーツをやっているからなのでしょうが。
書き起こししている人間にはチンプンカンプンでして。ともあれ今回の撃剣大会は幕とします。次回はご参考のために野球の項を…。あてにせずに御待ちくだされ。

(30)山田氏体躯短小しかも其技に於ては侮り難く軽快疾撃些の隙を見ず其名本校に鳴る而して稲田氏もさるもの監獄中屈指の勇将互にしのぎをけづりしが奇怪!彼れ遂勝を得たり!軍扇彼の頭上を飾りぬ!奇怪!然れども山内氏よ落胆する勿れ氏の伎倆かれの上にあり一勝一敗以て自暴する勿れ運命!
(31)敵は誰れ?昨年渡部氏を敗つて名声轟々たる澄川氏日野氏前敗を雪がんといらだつ心を静めつつ太刀打つ音叱叫する掛声一進一退、受手討手、審判官は「一本勝負」とさけぶ無念の一声高く面と討つ軍扇我れに翻る(32)稲葉氏は誰れを彼れは監獄の名立ものしかも一昨年昨年氏の不運不幸は続けり本年は如何氏蓋し此仕合を鶴首して待ちしならん、然れども本校の野村氏又新進の豪者雄壮明快凛々しき風を揃へて奮撃雷雹の如く虚をつく瞬時ならず一揖して刀をむかふや双虎月をのまんとして戦ひ、両龍玉を得んとして搏するの活戦いつ果つべくもあらず遂に審判官は引分を宣告す残念!
(33)原は昨年名原氏との快戦に於ける敗将渡部氏亦澄川氏に敗られたる勇士、果して如何ぞ、彼れ侮るべからず我又何ぞ彼れを敗らざることあらんや、然れども天運常ならず意ならず奇怪又敗報、
(34)此より以後本校の堅!吉儀氏は本校の大立者布野氏又齋力無双の驍剛者、如何にと見つむる切っ先!見事我はうたれぬ!然れども吉儀氏何ぞ屈せん正に奮進突撃の活舞台は開かれんとしたる途端又もや一刀我はうたれぬ!止る哉、
(35)大谷氏名は一二郎山岡氏名は三郎相等しといふべし然れども其技に至ってはいづれ劣るやいづれ勝るや豪のもの山岡
氏例の暴力いたく敵をつからしぬ、しかも大谷氏よくふせぎて一打一搏縦横自在激戦何時終るとも見えずして遂に引分けの命は下りぬ、
(36)敵を誰れとなす田中将軍とこそは名乗れる横面うちの剛者激撃自由も猶予せずしかも名原氏もさるものよく敵をうけつがひ肉薄して見事最後の勝、何等の手腕ぞ、
(37)奇怪なる判者の眼やしかも直ちに引分となせる判者の心や、勝田氏快刀一番面を打ちぬ、やがて又おこる憂々たる竹刀の音凛々しき叱咤の声将た電光将た石火乾坤にかがやき風雲惨憺殺気堂に満つ俄然判官は「一本とります」の一声に勝田氏不審と思へ「左小手だ」の一喝と共に引分けの宣言は下りぬ
(38)より(42)に至る仕合の如きは剣術の蘊奥を極め神出鬼没到底我禿筆を叱するも猶よく其萬分の一も描き出すの能あらず?此等は目みて口云ふ能はず手写を能はざる活ける龍虎の快戦?然らずんば天狗鬼神の妙術?
語よ寄す、本校14名の選手諸士よ諸氏が敵とする監獄警察の選手は徒に呉下の阿蒙にあらず正に諸氏が傲れる鼻を挫き呉れんと捲土重来の機を待ちつつあり、然り本年の仕合の結果は如何ぞ、勝点13に対する負点5、仕合数に対する7分5厘の割合なる勝数ならすや、諸氏よ傲慢の心をは起す勿れ天は我等のみに興せず、昨年一昨年の勝利を夢みるな、緊褌一番せよ、

時恰も日西山に没して講堂は夕日かがやく光に浴びつつ勝者の賞品授与終りて目出度い千秋楽6時半、