4号 新体詩

新体詩と聞くと国文学史の用語になりますが、ようするに島崎藤村とかの書いた読み上げると調子のいい長編詩みたいなものかと勝手に解釈。昔習ったことはとうに忘れ去っておりますので、そこのところはご自分でお調べくだされ。
この「ゴールド・スミス」氏についても検索したらちゃんと出て来ました。当時英語圏でベストセラーになったのを訳してみた、というノリかなあと。この中村了氏はどんな職業に就いたのか知らんなどと想像を広げてみるもよし。原本では一節ごとに改行されて印刷されているのですが、スペースが勿体ないので今回は4節を一区切りで書き起こしています。読むのも切りが良いので。では、当時の文学好きが好んだロマンス小説?の一部をお楽しみくださいませ。
ちなみに原作はGutenberg(グーテンベルグ=主に英語の著作権の切れた文章ほかをボランテイアが書き起こし、無償で配布しているところのサイト。日本でいえば「青空文庫」)でちゃんと読めるようです。
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新体詩

仙境  在金沢  中村了訳 ゴールド・スミス氏の傑作
ヴィカー、オフ、ウエーキフィールド中の一節}
(4号  59頁〜64頁)
在金沢 中村了訳


「やよ山人よ物まをす 火影ほのめく彼里は 
いづこなるらん知らねども  あはれかしこに導くけよ、


 淋しさ増さるこの夕 あゆみ疲れて今にしも
 踏み迷ひけむ荒野原 行けども行けども果ぞなき」


 こを聞きたる山人は 徐に口をひらきけり


 「此野は魔神のさまよへば いましも死地に導かむ、
 やみぢに迷ふ人々を 救はむための我家なり


 忽べわかうど詫びしとも、与ふるものを享けよかし
 蒲の寝床ときさのしる わが祝福と安けき眠、


 谷間さまよふ禽獣は いかでか屠り殺されむ
 我を恵める神のごと 彼等を我は憐まむ、


 我は神より恵まれし 艸生の草をつみ来り
 泉の水を汲み来つつ 野菜のみなる馳走せむ、


 いざ旅人よなが持てる うき世のうきを捨てよかし
 人は此世の事欠かじ 欠くとも永く続かねば、」


 いともやさしき言の葉は 暫し茲に途絶えける
 小腰かがめつ若人は 伴はれつつ続きゆく、


 名もなき荒野の草深く いぶせき小家ぞ横はる
 賎か伏屋か避難所か 旅人救う仮の屋か、


 僅か当石のたくはへは こころ置くおと更になし
 柴の折戸を推し啓き 罪なき二人は入りてゆく、


 日は早やくれて山樵も おのが家にといそぐ時
 あるじは榾(ほた)をたき添へて こころの限りいたはりぬ、