第十三日目

今回で完結となる。三刀屋からの道はそれほどの高低差はない。
現在54号線沿いの加茂(かも)の町周辺には川を渡る橋のところに「ラメール」という「白亜のお城」が唐突に建っているので見てみてください。
完成当時はむやみに目立っていましたが、何年かを経てどうにか風景になじんではきました。が…よく町議会がパースを見ても許可を出したものだと感心します。

第十三日、(旅行の終日)4月26日、快晴
日を費す十有三、我等は健脚を呵して藝備の山水を踏破し、芳葩に旅衣かたしきては、去つて瀬戸内海の月明に嘯き、遠く南海の一部を訪ふて茲に、本日再び雲城の山光水色に接せんとす、鞋痕を印する所水陸實に二百里草枕かり寝久しくして今郷に入らんずる遊子の心傷転た一種の感懐なき能はざるなり。夢を破れば衆悉く覚めて喧々囂々す乃ち旅装を終りて帰路に向ふ。

一律の平道長くして砥の如く、昨夜の雨名残を履痕に止めて沿道の蒼緑露滴らんとす、里熊橋を渡りて道は連山の間に入り森林の中を走る我等は此の山様に対して舊知己の感多し、

加茂の町はいつしか右に見捨てて碧湖の一部を縹渺の裡に見る迄に至り、快哉を連呼し足を早めて11時宍道町につく、

装を更めて午後1時汽船松江浦丸に搭すれは、瀲?たる波光風軽くふきて遠山近帆共に画趣のものたり、甲板上に立ちて高く放吟すれば余音水をくぐり水を度りて嫋々として長く、衆意気等しく勃然漸くにして浮島々邊老松長へに翠なる所、幾多白鴎の群を驚かしつつ船の大橋に止まりしは2時をすくる頃なりき。


松江は依然として舊の如きに幾多の旅館を身に負へる我等は、更に万丈の黄塵をあひて校に帰り茲に恙なくして長途の修学旅行を終りぬ。宿に入れは出立の前に当て、余が挿し置ける花瓶の桜は、紅葩むなしく去りて床上落花狼藉たり。
(完結)